義足ユーザーにとって良い”ソケット”とは?~BionicM義肢装具士 松原のコラムvol.2~

こんにちは、BionicM 義肢装具士の松原です。

前回からはじまりました、このコラム。今回は義足のソケットの良し悪しをお話ししていきます。

良い「ソケット」ってなに?

いきなりですが、結論から先に言うと、良く分かりません!

話すと言っておきながら、なんていい加減なんだと思われるかもしれません。
ですが、もうちょっとお付き合い下さい。

義足も膝継手にコンピュータを入れたり、足部にカーボンを用いたりなど、様々な研究・開発が行われています。

もちろん、ソケットに関しても研究されてはいます。
それはもう何十年も!

しかし、未だにはっきりとした結論はなく、世界的に統一された見解もないのが現状です。
その理由は、やはり人間が感覚で判断するものだからです。

きついソケットが好きなユーザーもいれば、ゆるいソケットが好きなユーザーもいるのです。

では、わたしはどう思うか、お話しさせていただききます。

と言いますか、これから書く内容は日本で義足をたくさん作っている義肢装具士の多くが考えていることです。

良いソケットは隙間はないが、ゆるいソケットです。

ではなぜゆるい方が良いのか?

それは、ソケットがきついと、ソケットの中に入れる切断された足の部分(断端と言います)が“萎縮”してしまうからです。

“萎縮”とは、筋肉や脂肪といった軟部組織が減ってしまうことです。

“萎縮”に関してイメージしてもらうための説明をすると、例えば腕にベルトを血が止まらない程度に、きつめに巻いてみて下さい。
それを外さないで、ずっとはめ続けます。

すると、ベルトがゆるくなります。ゆるくなったらまた締めます。

繰り返していると、ベルトが当たっているところだけ腕が細くなってしまうのです。
それはもう、女王エリザベートのウエストのように。

では、ソケットの中に入れる切断された足の部分を鍛えたり、太らせたりすれば良いのではと考える人がいるかもしれません。
ですが、不可能とは言いませんが、かなり難しいことなのです。

例えば、体全体が太っても、ソケットの中に入れる切断された足の部分は太らない人がほとんどです。

筋肉も、パラリンピックに出るくらい鍛えないと、太くはならないのです。
(と言いますか、一瞬太くすることは可能ですが、太いまま維持するのが大変なのです)

軟部組織はソケット内に足を入れた際のクッション材です。
クッション材がなくなると痛みが出やすくなってしまいます。
でも一度失ってしまうと、取り戻すのが大変なのです。
それはもう、女性からの愛情のように。(一般論です、念のため)

以上のことから、ゆるいソケットを履いて、軟部組織を減らさないようにすることが、長期間、義足を履き続けるために重要なのです。

初めて履くソケットがその人にとっての“当たり前”になってしまう

今あなたのソケットは、きつめですか?それとも、ゆるめですか?

その好き嫌いはどこから来るのでしょうか?
異性のタイプのように外見でしょうか?性格でしょうか?
わたしは・・・、やめておきましょう。

ソケットに話を戻します。

ソケットの“きつい”、“ゆるい”に好き嫌いがあるのは、わたしが思うに、生まれて初めて履いたソケット次第だということです。

例えば、野球やサッカーを例にしてみましょう。

実際に部活で野球やサッカーをしたことがない方でも、ルールやプレー内容を分かっている人は多いでしょう。
また、テレビの中のプレーに、あたかも自分がコーチであるかのように文句をつけることもできるでしょう。

例えば野球なら、お気に入りの球団がチャンスを迎えた際、絶好球を見逃したら、
「今の球を打たなくてどの球を打つんだ」とテレビの前で言ったことがあるのでは?
自分では、バッティングセンターの球ですら、まともに打てないのに・・・

サッカーなら、ゴール前の空いたスペースへの絶好のパスに追いつけない選手がいたら、「走っとけよ」と思ったことはありませんか?
自分では、健康のためにとジョギングしてもすぐに息が上がってしまうのに・・・

つまり、経験者でなくても手に入れられる情報があふれているのです。

でも、義足のソケットは、ほぼ全ての人が情報を持っていません。
なぜなら、自分が義足ユーザーになると想像している人など、ほとんどいないからです。

中には、疾病(骨肉腫など)で義足ユーザーになることが確定し、手術までに時間がある方もいるでしょう。

その場合、インターネットで“義足”を検索すれば、膝継手や足部といった情報は出てきます。
でも、ソケットの情報はほとんどなく、ソケットが一番大事などということは考えもしないでしょう。

ましてや、事故などで急遽切断したユーザーは、情報を調べる時間もほとんどありません。

このため、切断後、初めて履くソケットが、その人にとっての全ての情報であり、“普通”、“当たり前”になってしまうのです。

初めてのソケットがきつければ、“きつい”のが“普通”だと思いますし、ゆるければ“ゆるい”のが“当たり前”だと思ってしまうのです。

そして、最初に培った感覚は、後々までずっと変わらない人が多く、2本目以降の義足、ソケットにおいても、その感覚を求めてしまうのです。
この結果、ソケットの“きつい”、“ゆるい”に好き嫌いが出来てしまうというわけです。

だからこそ、初めてのソケットが重要であり、初めてのソケットを製作する義肢装具士が責任重大なのです。

“きつい”かもしれないソケットとは?

そんなこと言われても、すでに義足を使用しているユーザーの皆様は“もう、どうにもできない”と思われるかもしれません。

確かに、すでに義足を使用しているユーザーからすれば、今更という話です。
でも、今後履き続けるソケットをどうするかという問題でもあります。

上でお話しさせて頂いたように、“きつい”ソケットでは、ソケットの中に入れる切断された足の部分が“萎縮”してしまう可能性があります。

このため、ひょっとしたら自分のソケットは“きつい”のではないかと思う方は、これまでの感覚を一度捨てて、わざと“ゆるく”製作するよう、担当の義肢装具士に相談してみて下さい。

そして、最初は不安定に感じられると思いますが、1ヶ月くらい、我慢して使ってみて下さい。
もちろん、傷が出来たり、不安定で動作困難だと思ったりしたら修正して下さい。

それでも駄目なら無理する必要はありませんが、修正を加えながらでも1ヶ月使えれば、大抵はそのまま使えるものです。
逆に一日二日では、分からないものです。

異性との相性も同じですね。

では、ソケットが“きつい”かもしれないというのは、どの様に判断したら良いのでしょうか?

明らかに“きつい”のは、ソケットの中に切断された足の部分を入れたばかりの時に、血液が流れる「ドクッ、ドクッ」という感覚がある場合です。(しばらくしたら収まるからというのはよくありません)。
ましてや、痺れてくるけどしばらくしたら落ち着くなんて言うのは言語道断です。

この場合は、速やかにソケットを直しましょう。

そこまでいかなくても、朝、義足を装着しようとしても、ものすごくきつく、時間がかかるという場合や、朝に比べ夕方にすごく緩くなる場合は要注意です。

1年以上使用されているユーザはお分かり頂けると思いますが、ソケットの中に入れる切断された足の部分は、1日の中でも体積が変化します。
義足を外して、お風呂に入り、夜寝ていると、太くなります。
このため、朝が一番太いのです。

朝一、義足を装着しようとした際、夕方に再装着する時と比べれば“きつい”のは当然ですが、ものすごく“きつい”という場合は、ソケットが“きつい”可能性が高いです。

また、ソケットの中に入れる切断された足の部分が柔らかいユーザーは、朝、ソケットがきつくても、それ程苦労しなくても義足は装着できるかもしれません。
ですが、日中、義足を履いている間、ソケットの中に入れる切断された足の部分がソケットによって絞られ、夕方にものすごく細くなってしまうのであれば、ソケットがきつすぎる可能性があるのです。
このソケットが“きつい”せいで生じる1日の差も、可能な限り小さくした方が良いというのがわたしの考えです。

例えば、シリコンライナーで、先に金属のピンを使用しているユーザーであれば、朝、義足を装着しようとしても、奥まで入らないとしましょう。
この状態が何時間も続き、お昼近くにならないと、一番奥まで入らないという場合は“きつい”可能性が大きいです。

ソケット

ここまで、“きつい”方ばかり書いてきましたが、もちろん“ゆるい”のも問題です。
朝、装着しようとした際、たいして苦労もなく、最初から一番奥まで入ってしまい、シリコンライナーがソケットの底に強く当たってしまうのは“ゆるい”可能性が大です。

シリコンライナーで金属のピンを使用している場合であれば、絶対ではありませんが、朝一番に義足を装着する際、一番奥まで入れるのはちょっと大変なくらいが良いと思います。
そして、ちょっと浮いていても、そのまま歩き始め、結果、シリンコンライナーおよび金属のピンが一番奥まで入り、ソケットに足がなじむまでに、30分以内くらいであれば良いのではないか、というのがわたし個人の目安です。

もちろん、個人差もありますし、ソケットには体積以外にも、形状といった、他の要素もありますので、あくまで目安ですが、参考になれば幸いです。

次回は、“ソケットのゆるさ加減”をもうすこし深堀りしていきたいと思います。

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