すべての関係者が唸る製品を生み出す。モノづくり歴40年の集大成~メンバーインタビューvol.3~

インタビュー第三弾となる今回は弊社執行役員である半澤誠規さんにインタビューを実施しました。

前職であるソニーでの大ヒット商品の開発裏話・新規事業の成功要因など、長年の経験に裏打ちされた知見の数々をお伺いいたしました。

今回インタビューしたのは・・・

BionicM株式会社 執行役員
半澤誠規

早稲田大学卒業後、1980年ソニー入社。ビデオカメラやウォークマンといった花形商品の開発・商品設計、その後、品証・CSなどにも携わる。社内の新規事業創出プログラム(SAP)に参画し、新製品開発を設計・品質の両面からサポート。2017年に定年退職後、2019年BionicMに参加。現在執行役員として義足開発を幅広く支援している。

 

目次

  1. SONY全盛期を支えたエンジニア時代
  2. 多くの新規事業を支援して見えた、ビジネスの成功要因
  3. 競合他社に設計がバレてもいい。簡単に真似できないコアコンピタンスを確立する

SONY全盛期を支えたエンジニア時代

―― 黄金期のソニーを支えたエンジニアだとお聞きしました。どのような製品開発に携わっていたのか気になります。

1980年にソニーへ新卒入社し、まずビデオ一体型のカメラ開発に携わりました。当時のカメラは今の放送局のカメラぐらい巨大で、一般消費者向けのコンパクトな製品はありませんでした。ソニーでは1979年頃から小さなビデオカメラを作るプロジェクトが始動しており、私もそこに配属されてメカ設計のキャリアをスタートしました。

といっても最初は見習いなので覚えることに一生懸命で毎日が勉強でした。最初に感じたのは同じ製品でも、1個作る設計と、量産の設計は全く別物だということです

例えば、製品の角を丸くする作業も、単純に削れば作れるけど、量産時に1個1個削ると膨大な金額になります。ですので、最初の試作品は手加工で作るとしても、どこかの段階で量産用の金型を作ります。それを今度はブラッシュアップし、何万台・何百万台を生み出す金型に仕上げていかなければなりません。結構大変な工程なのですが、金型品を初めて見るときは本当に嬉しくて。 野暮ったい試作品が、洗練されたデザインになり、商品棚に並ぶ姿を彷彿とさせる。これを育てて量産・出荷・販売に繋げる。まさに自分の子供のようですね。

 

――モノづくりと言うと、試作を繰り返して1個を作るイメージが強く、量産用の金型を作るという認識はありませんでした。

彫刻のように自分でモノを作ってそのまま売るのであれば必要ありません。ただ何万台も作るとなると、必然的に委託生産になる。製造事業者が金型などのツールを活用して設計者が立ち会っていなくても生産していただけるように製品のすべてを理解してもらう必要があります。設計者としてはどういう情報を伝えれば意図通り生産できるのか考えないといけない。

もちろん製造事業者側には、出荷物の品質を担保する責任があり、設計内容を理解しようと努めてくださる。設計者に細かい情報を要求したり、問題が起きたら解決を迫ったりします。”良い品質のモノを量産してもらう”、この道筋を描けるか、実現できるかというのは非常に重要なんです。

インタビューを受ける半澤さん

―― 量産できてこその「製品化」なのですね。自分が設計した製品が店頭に並んだ時は、言い表せない感動が待っていそうです。

今でも忘れられない出来事があります。ある新製品導入で販売会社を訪れたとき、相手の方から「これいいね。うちで全部買うから、できた分は全部持ってきてよ」と言っていただけました。これは凄く嬉しかった。この製品は一機種で50%を超える驚異的なシェアを取り、自分の中でも記録になっています。

しかもこの製品、実は画期的な新技術を取り入れていたわけではありませんでした。バッテリーだけは少し小さいものを新調しましたが、それ以外は、”あの機種のレンズ”、”この機種の駆動メカ”という具合に、既存製品のデバイスを寄せ集めただけでした。”メカ屋がまとめたセット”みたいな(笑) 。というのも、バッテリーをほんの少し小さくするだけで、ビデオカメラを劇的に小型化できると気付いたのです。そのアイデアをデザイン化して当時のトップに直談判し、GOサインを貰って製品化にこぎ着きました。

「全体をどうデザインするか」というメカ設計の力量が問われた製品を大いに褒めてもらえ、率直に感動しましたね。

 

――販売のプロに認めてもらえた瞬間ですね。ビデオカメラの設計はどのくらい携わっていたのですか?

27年間です。1985年に8ミリビデオ、1995年にデジタルビデオ、2004年にデジタルハイビジョンと、新フォーマットのビデオカメラを次々に開発していきました。そして、2007年にテープ系最終モデルを作り終えました。ビデオカメラの後は、ウォークマンの開発に携わりました。その後、品証を担当するようになりました。

 

――品証? あまり馴染みがない言葉です。

品質保証の略称です。設計は作って売るという攻めの役割ですが、品証は製品の品質を担保する守りの役割。品質問題はお客様の信頼を失うとともに大きなネガティブコストにもつながります。

製品不良が起きると修理・交換が発生します。保証書の期間内なら無償ですし、更なる不良を防ぐために金型も作り直すなど対策をしないといけません。また、事故につながるような問題であれば市場改修やリコールになるケースもあります。例えば、ストーブのホースでガス漏れの危険があります、といったアナウンスです。最悪の場合、経産省から指導が入り100%の回収を目指したアクションを求められるなどということもありえます。

仮に不良が1%出るとしたら、単純計算で売り上げの1%は無くなり、プラスで対応するためのロスコストも含めると経営に対する影響も相応に大きくなってきます。このように”品質”は企業として信頼を得るため、また、コスト削減という意味でもかなり重要です。

品質に問題がある製品を出荷したいと言われたら、相手が社長だろうと羽交い締めにしてでも止める。そういう守りのポジションが品証です。

正直、私は攻めの方が好きです(笑) 。なので、私は”攻めの品質”(Proactive Quality)を掲げていました。設計を見れば製品の全容が分かるので、全部品を検証・評価するのではなく、問題が起きそうな部分を狙って評価する。設計の経験を活かして、問題の未然防止や効率良く評価するというのが、攻めの方針です。私はその後、社内のいくつかの新規事業チームの品質責任者を担当することになったのですが、この“攻めの品質”方針は、スタートアップの小さい組織に向いていると考えています。

多くの新規事業を支援して見えた、ビジネスの成功要因

―― 守りの品証でも攻めの姿勢。半澤さんのアグレッシブな性格が伝わってきます。新規事業創出部での役割について教えてください。

当時ソニーでは、SAP(Seed Accelaration Program)という新規事業創出の仕組みが作られました。当初は新規事業案の社内オーディションで採択されたアイデアを実際にビジネスとして立ち上げる支援をす仕組みでした。エントリーするチームは若手中心のケースなども多いので、プロジェクトを応援するための加速支援チームも同時に組成されました。マーケティングのプロや、プロジェクト推進のプロといった集団。私も設計と品質保証のサポートをする役割としてこのチームに入りました。

経験が少ないと「試作品ができたから、これを製品化すればビジネスになる」と安易に考えますが、それは甘い。完成度からいうと試作品ができた時点では10%、20%の世界です。アイデアベースの試作品は発表の場だけ動けば良いぐらいのモノである場合が多いですが、ユーザーが365日24時間使って、1年に1回でも不良が出たら、その人にとっては不良率100%となります。100人が使って1件でも不良が出れば、市場不良1%です。それぐらいの厳しい品質レベルを求められるのが世間の常識です。ですので、相応の設計、相応の評価を繰り返してブラッシュアップする必要があります。新規事業であると、そのレベル感に至っていない場合が多い印象です。

また、品証の話だけでなく、部品調達の仕組みや量産までのプロセスなど企画してから販売するまでの一連の業務を彼らは知らない場合も多いです。ですので、「こういう機能がこういう役割を果たしている」という初歩的な部分から説明していく必要があります。ただ、説明だけではピンとこないので、私は一緒になって具体的な道筋をつけていくというやり方を意識し、支援してきました。

 

―― まさに先生ですね。2017年に定年退職されるまで新規事業の支援をされていたとお聞きしました。

実はソニーを退職した後も、同じやり方でいくつかのプロジェクトを手伝っていました。BionicM代表の孫さんと出会ったのもその一環です。

2019年1月末に初めて会い、量産までに必要なプロセスや、マスタースケジュールの立て方などをレクチャーしました。ただ当時は孫さんとインターン生で義足を設計している状況で、モノになるような気配が全くなかったです。「ちょっと手伝いますよ」と設計の支援も始めました。

久しぶりのメカ設計だったのですが、久しぶりの設計はやっぱり楽しかった。 設計にすっかりハマってしまい、そのまま入社を決めました。

 

―― エンジニアとしての血が騒いだのですね。SAP時代や退職後に数多くのプロジェクトを支援されたと思いますが、成功・失敗を分けるビジネスの秘訣は何かありますか?

先ほど話したように量産までの道筋を描き、実現できるかどうかが第一次に重要なのは、製品の1号機を発売した後も、ビジョンを持って2号機以降を作れるかどうかです。多くの新規事業が失敗するのは1機種作って終わってしまいます。「こういうものを作りたい!」というビジョンを持ち、1機種作って売るまでは行きますが、次がないとそれ以上の発展がありません。

理想としては、コアになる何かがあり、それを使い続けるだけでビジネスが繋がるというもの。例えば、プレイステーションがよい例です。ゲームのハードの1号機が売れればコンテンツは追随し、ソフトが売れればハードも一緒に売れるというポジティブなスパイラルになります。そして2号機以降にも引き継がれる。コアになる技術があれば、そのバリューをチェーンにしてビジョンを繋げていけるのです。このコアを作るところは産みの苦しみでもありますが、そこが醍醐味でもあります。

1号機はとにかく力技でも出すしかありません。ただ、その間に次のネタを仕込み、2号機以降に繋がるようにしておくという中長期的なビジョンも必要です。

 

競合他社に設計がバレてもいい。簡単に真似できないコアコンピタンスを確立する

―― BionicMではどのような業務をしているのでしょうか?

メカの基本である駆動系の設計と、それを含めた実装設計です。前者は必要な性能・数値を計算し、それを満たすモーターやドライバー、センサーなどの部品選定。後者は思い描いた製品像の中で、各部品をどう組み込めば全体のバランスが取れるかというデザインの部分です。

メカの醍醐味は全体像を作れるところだと考えています。デザイナーと相談しながら、理想の形を作っていく。特に義足は人間に組み込む製品なのでデザインが重要です。脛のフォルムに合わせたり、見た目を綺麗にしたり…。

”見せる義足”として、全体のデザインが施された機種は少ないのです。細く、軽く作っているものが多く、一瞬で義足と分かるような製品ばかりです。なので、量産を依頼する際、製作所の人に「おお!これはすごい!」と言ってもらえる製品を作りたい。BionicMの製品にはその素養は十分にあると思います。

 

―― 先ほどの「2号機以降を作れるか」という観点では、BionicMの義足をどう捉えているか気になります。

BionicMには”Powering Mobility for All”という壮大なビジョンがあります。また、2号機・3号機へのアイデアも沢山あります。今はそれらを実現するためのコアコンピタンスを作っている段階です。

BionicMの真似できない強みはドライブ技術になるかなと。モーターやドライバーを使ってモノを動かす、それによって人の生活を豊かにするというビジョンは変わりません。ですので、その技術を極めていく。他社が容易に追従できないレベルにまで持ち上げなくてはなりません。

例えば今回の義足が「面白いね」「売れたね」となれば、大手企業は似た製品をすぐに作ります。コアコンピタンスを確立しないと、大手の力技ですぐに潰されます。なので、2号機、3号機と畳みかけ、追従されないようにする必要があります。後継機種なのか、多角化なのかの違いはありますが、自分たちの強みを生かすビジネスを続ける。このビジョンをずっと持ち続けることが難しく、BionicMの真価が問われるところですね。

これは個人的な想いですが、他社のプロにも認めてもらえる製品を作っていきたいと常々思います。良い製品は、他社のエンジニアに買われてバラされて徹底的に研究されます。その時に「こういう風になってたのか!」と思ってもらえるような製品を作りたいです。

―― その道のプロを認められるのは、同じ道のプロだけということなのですね。

もちろんお客様にも満足してもらって、また次の機種も買ってもらいたいです。お客様は1度買って「これ駄目だ」と感じたら何も言わずに去っていきます。だけど「良い」と思ってくれたお客様は次の機種も買ってくれます。また、文句を言うお客様も意外とファンであることが多いのです。ですので、お客様の声は絶対に外すことはできません。できるだけお客様の視点でモノを作るように常に心がけています。

 

―― お客様、競合他社、製造事業者。関わる人すべてが「凄い!」と思う製品を目指されているのですね。

はい。ただ、それは誰か一人の力だけでは達成できないと考えています色んな力・技を持ってる人が知恵を結集させてこそ、人を唸らせるものができる。そう考えています。少しオタクが入っているぐらいの人が集まると本当に凄いものができるんですよ(笑)。

そういうメンバーが集まって製品の構想を練るときは、非常に盛り上がります。「これやったらいいんじゃない?」「こうすればできるよ」「だったらこれでいいんじゃない?」と、上下関係なくフラットに意見をぶつけ合う。今のBionicMにはこういった雰囲気がありますね。

 

―― 貴重なお話、ありがとうございました。

取材後記

「私が今まで積み上げてきたものを伝えていきたい」と語る半澤さん。親子ぐらい年齢が離れていても、同じ方向を向き、モノづくりに向き合える。このような環境がある種BionicMのコアコンピタンスなのかなと感じました。若手メンバーと一緒にモノづくりの最前線に立つその背中からは、本当に学ぶことが多く、まさに師匠のような存在です。すべてのステークホルダーを唸らせる義足、完成がさらに楽しみになりました。

BionicMでは仲間を募集しています。

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